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近況報告、二次加工品の展示など
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100題で、剣司と総士。
剣司が生徒会長に立候補した経緯とか。

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文化祭に向けて、もう一月を切ってしまった夕方。
教室の隅にはボール紙が寄せられ、側の水入れには洗い立ての絵筆が逆さまに干してあった。
水を含ませてぎゅっと絞ったそれは表面の毛だけが、乾いて数本分離し、窓から差し込む西日を浴びて、きらきら光って見える。
校庭沿いの窓の鍵を一つずつかけ、戸締りを確認していく。
先程まで賑わっていた教室は、今では閑散としてしまっていた。

「剣司! 母さんが帰るまでに夕食の支度をしておきたいから、私はもう先に帰るよ」
「姉御、そりゃないぜ~」
「週番のくせに日誌書き忘れてたあんたが悪いんでしょ!」
「僕が咲良を送ってくから、剣司も遅くならないようにしなよ」

引き戸から顔だけ覗かせて、衛はそう言い残した。
二人とも普段は咲良の尻に敷かれているが、夕暮れ時に一人で帰らせるようなことはしない。
先に行ってしまった咲良を、衛は追いかけていった。

「あー…、総士。3限目って、何やってたっけ?」
「国語、小テスト終わってから寝てたんじゃなかったのか?」

シャープペンの後ろで、剣司は頭を擦る。
総士は生徒会の用件で職員室に寄ったわけだが、なぜか戸締りを押し付けられ、剣司が出し忘れた日誌についても頼まれてしまった。
剣司の方は文化祭の準備に夢中で、彼に言われるまでそんなことはすっかり忘れてしまったいたのだった。

「他のみんなも似たようなもんだろ……、衣装とか道具とか、時間が足りねぇよな……」
「そんなのは初めからわかりきっていたことだろう」
「そりゃそうだけどさ」

今日のあった出来事、週番が担任にその日あったことを報告する欄に、生徒たちの目下の関心事である文化祭の準備についても記入する。

「咲良も衛もとっくに帰っちまったし、総士も先に帰っていいよ。教室の鍵は俺がついでに持っていくし……。体育祭終わったあとは、生徒会長選挙だろ。俺たち以上に忙しいんじゃないのか?」
「何が?」
「立候補、するんだろ?」

当然のように剣司はそう問いかけてくる。
締め切った途端、風が通らなくなって、教室が急に蒸し暑く感じられた。
東へ沈んでいく太陽の残照が、総士の表情を剣司に読み取りにくくさせる。
剣司は目を細めた。

「……いや、僕は生徒会長には立候補しない」
「は? 俺だけじゃなくて、全校生徒、先生みんなそう思ってるぜ。……もしかして、もう受験のこと考えてんのか?」

この島に高校などない。
卒業して行き着く先はたった一つだけなのだから、受験も何もないだろうに、自分と果林以外は誰もそれを知らない。
こういうとき彼女は島の真実を、皆に突きつけてやりたくなるのか。
総士は剣司に気取られないよう、息をついた。
けれどそれは呆れではなく、どうやって説明しようかといった思案と、気持ちの切り替えでしかなかった。

「そうじゃない。僕は生徒会長には向かないし、他に適任者がいるだろう」
「向かないって……、俺、お前以上にきっちり仕事する奴なんか見たことないけど……」
「僕は裏方向きなんだ。統計処理をしたり、進行表を作ったりするのは得意だが、方向性を示したり、皆の士気を高めたりするのには向かない」

島の隠された部分は、外の世界と何も変わらない。
フェストゥムと戦うか、戦う者を助けるか。
総士はもうそちら側に組み込まれてしまっていて、他の選択肢なんて初めから用意されていなかった。

「例えば剣司が文化祭で、焼きそば屋台をやりたいとするだろう」
「いきなり話が飛ぶんだな」
「いいから聞け。そのとき大げさに言えば、剣司が焼き側の作り方を知っている必要もないし、材料の入手先を考える必要もない。とにかく剣司がやりたいと言うこと。それが大切なんだ。そこから先はみんなで考えればいい。火災や食中毒のリスクを考慮して、先生や保健委員と交渉するのは裏方の役目だからな」

どれだけ期待されようと、自分が何もできないということを、総士自身が誰よりもよく知っていた。
学校は総士にとってシェルターだ。
何もできないということが、みんなと同じであるということが許される空間。
そこにいる限り、総士もまた保護されるべき対象となる。

総士は左目の傷に手を伸ばした。
島の秘密を早くから知らされ、みんなという群れから引き離された総士が、みんなと一緒であれた期間は驚くほど短い。
今何も知らない剣司を前にして浮かぶのは、果林のような苛立ちではなく、羨ましさと庇護の気持ちだけだった。

「……じゃあ、俺が立候補してみようかな」
「いいんじゃないか? 少なくとも僕は反対しないさ」
「でも咲良とか母ちゃんとか、絶対無理って言いそうだけどな。もし俺が生徒会長になったら、総士。お前がちゃんと手伝えよ?」
「人を当てにするな」
「それでいいって言ったのはお前だろ? 来年の体育祭とかうんと派手にしてやろうぜ!」
「手伝う方の身にもなれ」

夢見るべき未来はどこまで保障されているのだろうか。

「よし、日誌も書き終わったし、提出しにいくか!」

椅子に座ったまま背伸びをし、剣司はシャープペンシルを、ケースの中に仕舞った。
電灯を消した教室に、夕闇が忍び寄ってくる。
剣司の机の横に並ぶと、パタンとノートを閉じるその隙間から文字が見えた。


「欠席者:蔵前果林」

総士の願いも、果林の不満も、全て日常に埋没していく。
誰も気付いてなんてくれない。
自分のすべきことは何か。
廊下を歩きながら、総士はもう一度だけその傷跡に触れた。
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