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近況報告、二次加工品の展示など
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100題の10個目で、総蔵。
描写はないけど、まぁそういう流れの話……。
1つの山場です。

-----------


なぜ自分が、こんなことをしなければならないのだろう。
あくまで大事なのはパイロットであって、それ以外などどうでもいい。
パイロットから降格され、CDCに送られた自分にはそれくらいしか存在価値がないと、そういうことなのだろうか。

剣司と学校で別れたあと、総士は自宅には帰らず、果林の様子を見に来ていた。
学校では学級委員という名目で、アルヴィスでは同じ子供だからという理由で、果林を総士に押し付けてくる。
学校の職員はCDC勤務が多いため、逃げ場などなく、四六時中見張られているようなものだった。

「蔵前、いい加減出てきたらどうだ?」

朝夕、総士はこの扉の前に立って呼び続け、この問答も何回目か知れない。
ファフナーの起動実験から外されたことは、総士の自尊心をいたく傷付けたが、彼女と違う職場になったことには、正直安心した。
比べられなくて済む。
そう思ったのに、これじゃあ余計に惨めなだけだ。

「……こんなことが、いつまでも続けられるわけないだろう。蔵前には蔵前の役目がある。島にいる限り、目の逸らしようがない事実だ。それとも君が言うように、他の子どもたちに秘密をばらして、自分の代わりにあれに乗せるか? 君はそれで満足なんだろう?」
「違うわ!」

勢いよく扉が開く。
ここ数日、篭城なんていっても、総士が来ているときだけなのだ。
形ばかりの抵抗で、人から同情や譲歩を引き出そうとする。
そんな果林を、総士は冷ややかに見下ろしていた。
その瞳の強さに果林はたじろぐ。

「……怖いのよ、なんだか自分が自分でなくなってしまいそうで……。皆城君はあれに乗ったとき、何も感じなかった? あんなの、人の乗り物じゃないわ……」

総士の暴言に血が上った彼女だったが、総士に迷惑をかけている自覚はある。
さすがにばつが悪かったのだろう。
言葉がどんどん尻すぼみになっていく。
そうでなくとも、自分を侮蔑している相手の前で、自分の正当性を主張するのは難しい。

声に勢いがなくなっていくのと同時に、顔も俯きがちになっていく。
関係ない方に目を走らせて、それでも気になるのか、時折こっちに視線を戻し、相手が折れて妥協するのを待っている。
本人に後ろ暗いところがあるのは勝手だが、自分を前にして萎縮し、何も言えなくなるその態度は誰かを彷彿とさせた。

「ファフナーは乗るんじゃない。一体化し、ファフナーそのものになるんだ。そういう意味でなら、君の言っていることは正しいだろうな」
「……そう」

ファフナーに乗るために憶えた知識だ。
CDCに移ってからも、惰性のように資料にだけは目を通し続けている。
彼女は期待に応えることができ、自分にはそれができなかったということを、彼女の前に出ると、嫌でも意識させられてしまう。
主観を抜きにただ事実だけを述べた。

「……ねぇ皆城君、ファフナーに乗る前の私って、どんなだったか覚えてる? 少し前のことなのに、ちっとも思い出せない。何かが違うの、でも何が違うかわからないの……」

果林は自分の母が、血の繋がった存在ではないことに、早くから気付いていた。
だから、小さなことで手を煩わせたくはなかったし、心配させないために誰とでも仲良くし、物事のをいいところだけ誇張して話す癖があった。
それを世間一般では優しさという。

「たぶん……、蔵前は何も変わっていない」
「嘘!」
「変わったとしたら、それはむしろ僕の方だろう」
「皆城君も、何か変わったって思うの……? だったら変わる前の自分って、どこに行くんだろうね……」

周囲の人間との不和を、彼女は望まない。
彼女は今も昔も、周囲の期待に応えたいだけ。
過去、現在様々な情報を分析し、推理する。
彼女の不安の原因はファフナーじゃない。

「いつも苛々してる。……変性意識って、ファフナーに乗ってるときだけなんでしょう? 別の自分がどんどん増えていくの。増えすぎてもとの自分がわからなくなる……。今こうして皆城君と話してる自分が本物かどうかさえ、わからないのよ……」

彼女はもともとカメレオンのように、親に友達に合わせてその色を変えていた。
短い期間に多くのことが会ったために、彼女自身も混乱しているが、ファフナーに乗り、アルヴィスと関わり、もともと日常生活の中でも被っていた仮面の数が一気に増えた。
彼女の不安の原因はそれだ。

過剰なまでの同調と自己消失。
本当の果林は何も知らない子供に、自分をファフナーに乗せた大人に酷く敵意を持っている。
けれど周囲と上手くやっていきたい彼女は、それをひたすら誤魔化し続けた。
嘘に溺れていく。
もう何が本当で、何がそうでないかなんて、彼女にもわからないのだろう。

果林が総士の手を取る。
それを自分の胸元に引き寄せた。

「蔵前、何を考えている?」
「今の皆城君も、今の私も、もう明日にはいないのかもしれないんだよ? だったら誰かにここにいたって、憶えててほしいの。……いいじゃない、減るわけじゃないんだし」

雫が頬を伝う。

「今ここにいる僕が、もう明日にはいなくなってしまっていても?」

戦時下での擬似恋愛なんて、ありすぎて笑えない。
精神を肉体に転化する、安っぽい解決手段。
結局いくら進化しても、人間は動物に過ぎないということなのだろうか。

「……後悔するなよ」

眉を寄せたままで、総士はただ一言確認を取った。






電気一つついてない部屋で、果林はベッドにうつ伏せになり、床の隅を見つめていた。
総士はカーテンの開いた窓の外を凝視していた。
身体がどんどん冷えていく。
離れていく体温が、いくら抱き合ったところで、二人が違う人間だということを思い知らせた。

「エッチって、もっと特別な、人生が変わるものだと思ってた」
「そんなわけないだろう」

どれだけ夢見がちなんだと、呆れる。
行為自体をどうこう言うつもりはないが、やりたくないことをやらされた総士の機嫌はすこぶる悪かった。
こんなことをしたって、現実は何も変わらない。
状況に適応しすぎた果林は、消えてゆく自己に怯えて誰よりもそれに執着し、初めから皆と隔離されて育った総士は、それゆえに全体との合一を求めた。
身体の距離がいくら近くなったって、抱えるものが違いすぎて、分かり合えるはずなどなかったのだ。
やってみないとそれに気付かない自分たちは馬鹿じゃなかろうかと、今更ながらに思う。

「……明日からはサボらず学校に出てこい」
「うん……」

彼女は言葉少なに、小さくそう呟いた。

「現実って、そう簡単に変わったりしないんだね」

何かを変えたくて、何も変わらなくて、後ろ暗いことばかりが増えていく。
それを止めることができなかった。
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