近況報告、二次加工品の展示など
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100題、総士と果林で仲直り。
お題15個消化。
和解するまでが長かったね……。
お題15個消化。
和解するまでが長かったね……。
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生徒会室に唯一ある、アーカーブに接続もしていない旧式パソコンは、簡単な事務処理にしか使えない。
各学年の文化祭実行委員から提出された領収書を整理し、総士は会計報告書をまとめていく。
机の方では果林が、この一年の間に増えた書類を必要なものだけ残し、不要なものを四分割して、メモ用紙に仕立て上げていた。
キーボードを打つ音と、はさみが紙を切り裂く音だけが響く。
行事にかかりっきりになっている間に、暑さも薄れ、蝉もいつしか鳴くのをやめてしまっていた。
体育祭が終われば、生徒会の引継ぎが行われる。
総士も果林も、来期の生徒会に加わるつもりはないため、三年生ともどもメンバーが総入れ替えになる。
大抵二年生で生徒会経験者が、次の会長になるのが常だったので、こういう事態は珍しい。
CDC勤務見習いの自分と、テストパイロットである果林。
先生たちは事情を知っているため説得しようとはせず、同級生たちは不審そうな目で見つめるだけだった。
「……会計報告書の作成は終わった。僕はCDCに用があるから先に帰らせてもらうが、蔵前はどうする?」
「私も行くわ。検査の予定があるから」
はさみを置いて、紙の隅を整える。
総士はパソコンの電源を落とした。
学校に制服はない。
けれどアルヴィスでは、その着用が義務付けられており、普段の生活を公私に分けるのなら、明らかにこちらが公けなのだと強く意識する。
「情報システムにおける改善点をまとめたものを、お持ちしました」
「ああ、今すぐ目を通す。それまで待てるか?」
「はい、わかりました」
父親であってもここにいる限り、表面上は上司の扱いである。
もとより、そんなに馴れ合うような親子関係でもなかった。
手渡した書類に数分で目を通し、それを机の上に置いた。
こちらに向き直る。
「CDCには慣れたか?」
「別に……、問題はありません」
「CDCに問題はない……、か。なら総士、お前は自身はどうだ。まだ不満か?」
てっきり書類の可、不可について述べられるものだと思っていたから、
突然の不意打ちに戸惑う。
あのお盆祭りの日、総士の反論を抑圧したのは、目の前にいる父親だったはずだ。
あなたがそれを言うんですかと、そう言い返してやりたかった。
「先程の会議でお前の処遇が決まった」
「……CDC勤務ではなかったのですか?」
総士が眉根を寄せる。
「あれはただの暫定処置だ。お前の能力を査定するためのな。そして皆が承認した。今回の課題も合格点だ」
薄暗い中、公蔵と目が合う。
机の上に放り出した書類を持ち上げて、彼は満足気に笑んでみせた。
「ジークフリードシステムに乗れ、総士」
「システムに、僕が……?」
「高い情報処理能力と、ファフナーに関する知識。そして何より、他人と思考を共有した状態で、己を保つということ。ファフナーと一体化できないというお前の欠点は、あのシステムにおいて長所となる。……自分に何もできないと思うのなら、今できることをしろ。そう言ったのを憶えているか?」
あのときはそれを悔しさと共に聞いた。
ファフナーには乗れない。
それがわかったとき、けれど全てから背を向けることも、総士には許されていなかった。
役立たずなら役立たずなりに、使い道がある。
あの言葉はそういう意味だと思い、それをばねにここまで来たのだ。
「……乗れるな、総士?」
負けず嫌いな総士の性格を把握して、誤解したならしたで構わないと、そう思っていたのだろうか。
父としてよりもアルヴィスの司令として接することが多いくせに、ここぞというときに親の目をしてみせる。
「はい!」
噛み締めるようにして、総士はそれに答えた。
司令室から続く廊下の一角にある、休憩スペース。
そこで果林は自分の手を静かに見下ろしていたが、足音で人が来たことに気づいたのか、顔を上げた。
「ゴメン」
「……今更後悔しているのか?」
総士は足を止める。
「ううん。いろいろ迷惑かけちゃったから、ただ謝りたかっただけよ。……アルヴィスの方に浸かり過ぎて、上手く日常に馴染めなくて、皆城君はまだこっち側にいたから、引き止めておいてほしかったの」
「そうか」
「私、ファフナーに乗るわ。この世界のどこにも逃げ場なんかてないって、わかっちゃったもの」
いくら現実逃避したところで、フェストゥムがいるというその事実は変えられない。
彼女はもう泣いたりはしなかった。
「僕はファフナーには乗れない。その代わり、システムに乗ることになった」
「そっか……」
彼女と会う度に苛々していた心が、嘘のように凪いでいた。
「……僕は君が羨ましかった。僕は生まれる前からファフナーに乗ることが決まっていたし、僕自身もそういうつもりでいたから」
「皆城君は男の子だもんね。ロボットとか機械とか、かっこよくて憧れてたんでしょ?」
「……そうかもしれない」
彼女が苦笑する。
ファフナーに乗りたいという気持ちはずっとあった。
男だからなんて、簡単な理由かどうかはともかく、自分が守られる側に安住できないのは、確かだった。
「ごめんね。何かもうたくさんあり過ぎて、何から謝っていいのかよくわからないわ」
「僕もたぶん蔵前に嫌な思いをさせただろう。相子でいいんじゃないか」
妥協案を出す。
「そうね。じゃあ、これからよろしく」
「ああ」
二人して歩く。
このとき自分たちは、初めて同じラインに立てたのかもしれない。
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