近況報告、二次加工品の展示など
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前回の続きで、こっちが本題。
総士と翔子です。
総士と翔子です。
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光が遮られた館内に、総士はカーテンの隙間から滑り込んだ。
舞台袖に行っても、特に手伝えることもないので、足手まといにしかならないだろう。
だったら観客としてみんなの勇姿を見届け、あとで労いの言葉でもかけてやった方が、よっぽどいい。
暗い中、空いている席を探して歩き回るのも面倒なので、そのまま壁に寄りかかる。
舞台の上では、シンデレラが継母と二人の義姉に雑用を押し付けられているところだ。
三人は今夜、お城の舞踏会に行くという。
入り口のカーテンが揺れる。
総士は暗闇に慣れ始めた目を、逆光に瞬かせた。
「……羽佐間?」
お世辞ながら、視力はそんなにいい方ではない。
それでも壁に手をついて身体を支える、髪の長い少女に、他に心当たりはなかった。
「皆城君……? 劇は?」
「まだ始まったばかりだ。早くこっちへ――」
閉ざされた空間に、舞台に差す照明とは違う、澄んだ外界の光が入り込む。
内と外の間で動きを止めた彼女を、他の観客の迷惑にならないようにと、総士が手招いた。
その瞬間、総士に応じようとした翔子の身体が崩れ落ちる。
「大丈夫か!?」
小さく殺した声に、後ろの方に座った客が振り返る。
仕方なく総士は、翔子の身体を外へと押し戻した。
「しっかりしろ。とりあえず保健室まで運ぶ。お姫様抱っこなんてできないからな、背中に乗れるか?」
翔子は総士の呼びかけに、かすかに頷いて見せた。
もともとよくなかった顔色は紙のように白くなり、脂汗が浮かんでいる。
「……ねぇ、皆城君。少しだけでいいから、みんなの劇を見させて」
「……羽佐間」
「シンデレラのティアラとか、作ったの私だから……。少しでいいから見ておきたいの」
総士の声に咎めの響きが混じる。
それでも翔子は途切れ途切れに、そう吐き出した。
真矢が学校に来られない翔子にも、何かできることがないかと探し、総士もときどき材料や完成品を運ぶ手伝いをしたものだ。
「ここまでできたの」と言ってそれを見せる彼女は、いつも誇らしげだった。
「いいから乗れ」
「皆城君」
「見たいんだろう? だったら乗れ」
総士のシャツを掴むだけだった翔子が、背中に体重を預けてきた。
「うん……、ありがとう」
カーテンの内側へと戻る。
魔法使いがシンデレラを哀れんで、魔法をかけるシーン。
かぼちゃは馬車に、ねずみは馬に姿を変える。
そしてシンデレラはぼろを纏った少女から、一夜限りのお姫様になるのだ。
ティアラのビーズが照明に反射して、遠目にも光って見えた。
「行くぞ」
「うん……」
総士は翔子を背負って走り出した。
道行く人々が、物珍しげに振り返る。
似合わないことをしている自覚はあった。
「一騎君もね、昔始業式の日に負ぶって行ってくれたことがあるの」
翔子がぽつりと漏らす。
「……あいつらしいな」
「一騎君、優しいから……。私、その日まで……、自分が持ってないものが本当はどういうものだったのか、全然知らなかったの。だからそれを見せてもらったこと、すごくすごく感謝してる」
鮮やかな記憶。
昨日のことさえよく思い出せないときもあるのに、どうして何年も前のことを、人は鮮明に憶えていたりするのだろうか。
幼かった頃、楽しい出来事は数限りなくあったはずなのに、それを思い出すとき、翔子のように楽しいことを楽しいと、うれしいことをうれしいと言えなくなったのは、総士の罪だ。
総士が一騎を同化しかけたあの日から、それ以前の記憶も、それ以降の記憶も、全てあの日に行き着く。
後悔はしていない。
散らばる緑の結晶。
痛みと共に刻まれた印は、総士を全とは切り離された個だと教えてくれたから。
「それが、たとえ手に入らないとわかっていても?」
「……ダメだって、はっきりわかったからかな。ないものねだりすることは、もう止めたの。今は自分ができることをきちんとやればいいって、そう思えるようになったから」
事実はときに、人を強くするのだろうか。
それでも自分は、いまだにないものばかり、ねだり続けていた。
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