近況報告、二次加工品の展示など
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そして記念すべき一騎と総士で、進路希望続編。
そして記念すべき一騎と総士で、進路希望続編。
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手には一枚のプリント。
机に突っ伏した状態で、剣司は一騎に問いかけた。
「かーずーきー、お前はどうするんだ?」
「何が?」
「進路希望。お前も就職だろ?」
「ああ……」
返事の切れが悪い。
そんな一騎に対し、剣司は勢いよく詰め寄った。
「もしかしてまだ決まってないのか!?」
「それだと、まずいのか……?」
「やりぃ、お前も仲間か!」
さっきまで萎れていたのが嘘のような元気さである。
そんな剣司の頭を咲良がはたいた。
「剣司、そんなことで喜んでるんじゃないの! ちゃんと考えな」
「いでででっ。……咲良には関係ねぇだろ」
睨み上げるが、逆に高い位置から見下ろされた。
「へぇ……、ずいぶんと生意気な口利くじゃない」
これ見よがしに指の関節を鳴してみせる。
剣司は格好付けたがりだったが、咲良は「女に買ったって自慢にならない」なんて、簡単に言えるような相手ではない。
散々訓練、手ほどきと称して投げ飛ばされてきた剣司にとって、その腕力は脅威でしかなかった。
「俺が悪かったって! ……大体一年後のことは一年後になってみないとわかんねぇだろうが」
「そんなこと言ってると、就職口がなくて学校に居残ることになるんだからね」
「はいはい」
「はい、は一回! 剣司だけじゃなくて一騎も、提出は今日の放課後だってわかってんの?」
今後はその矛先が、一騎に対して向けられる。
世話焼きなところは、親子して似ているのかもしれなかった。
「一応、島から出たいとは思ってるんだけど……、具体的な職種が思い浮かばなかったんだ」
ここからいなくなりたい。
そのために島を出たいと思っても、何かになりたいなんて、考えたこともなかった。
「あんた島出るんだ?」
「なんだ、一騎もかよ」
二方向から、反応が返る。
「俺もって……、他に誰がいるんだ?」
甲洋が島を出たがっているのは薄々気づいていたから、彼かもしれない。
だが返ってきた答えは、意外なものだった。
「総士の奴、東京の高校を受験するんだとさ」
「本当、なのか?」
「本人に直接聞いたんだから、間違いねぇって」
剣司が断言する。
「あいつ頭いいしねぇ……。この島に納まる器じゃないでしょ」
父親の仕事の関係だと、しょっちゅう島を出ていた彼。
あれは、こういうことだったのだろうか。
自分が島を出ても、彼はここに残るものとばかり思っていた。
水が蒸発するみたいに、自分は跡形もなく消えて、けれどその一方で島は自分がいた頃と何一つ変わらず存在する。
だから自分はここではない場所で、空気みたいになってここを――彼を思えばよかった。
その未来予想図がガラガラと音を立てて崩壊する。
屋上へ出る扉は、一騎がそこに辿り着く前に開いた。
生徒会室、職員室。他にも総士がいそうなところは隈なく探してきた一騎だ。
「総士!」
「……珍しいな、お前の方から話しかけてくるなんて」
屋上で果林と話していたあとだった。
総士に続こうとしていた果林を、後ろ手でドアを閉ざして隔離する。
まだ自分と彼女の関係を、一騎に知られるわけにはいかない。
こちらの様子を察してくれたのだろう。
ノブを押さえ込むと、しばし抵抗があったあと、大人しくなった。
「東京の高校、受験するって本当なのか?」
「何だ、いきなり」
「いいから答えてくれ」
同じ教室にいるから、声を聞く機会くらいはある。
けれど一騎の、総士に対して話しかける言葉を聞くのは、何年振りかのことだった。
「……希望調査だろう。あくまでそういう可能性もあるという話だ」
「お前、目見えないのに!」
「勝手に人を失明させるな」
視力が一.五以上ある一騎は、総士の弱視を完全に見えないものと勘違いしている節があった。
幼い日の鈴村神社での一件は、明らかに一騎の心に影を落としている。
別に、総士は左目の責任を一騎に負わせようとは思っていない。
あれは正当防衛だった。
一騎が総士を止めていなければ、今二人はこうして生きていなかっただろう。
そうわかっているのに、俯いた一騎の姿は、総士を苛々させて仕方がなかった。
この目を自分のせいだと思うのは、一騎の勝手だ。
いつも謝りたそうな顔をして、けれどすぐに視線を逸らす一騎。
ここにいる自分から目を逸らして、一体何に対して償いたいというのか。
傷のせいで、総士はファフナーに乗ることができなかった。
毎朝鏡を見るたびに、突きつけられてきた事実を、そうやって苦しんでいた総士を、一騎は知らない。
知らずにそういう顔をするのは卑怯だ。
「……用件は済んだか? なら僕はもう行く」
「行くな」
すれ違いざま、一騎は総士の袖口を掴んだ。
「……離せ」
「東京なんかに行くな。……何でわざわざそんな遠いところに行くんだ?」
目の届く場所にいれば、何が起こったって助けれやれる。
自分の何を犠牲にしたっていい。
だから、助けられないほど遠くまで行かないでほしかった。
「お前にどうこう言われる筋合いはない」
一騎の手は振り払われ、総士はそのまま行ってしまった。
手には一枚のプリント。
机に突っ伏した状態で、剣司は一騎に問いかけた。
「かーずーきー、お前はどうするんだ?」
「何が?」
「進路希望。お前も就職だろ?」
「ああ……」
返事の切れが悪い。
そんな一騎に対し、剣司は勢いよく詰め寄った。
「もしかしてまだ決まってないのか!?」
「それだと、まずいのか……?」
「やりぃ、お前も仲間か!」
さっきまで萎れていたのが嘘のような元気さである。
そんな剣司の頭を咲良がはたいた。
「剣司、そんなことで喜んでるんじゃないの! ちゃんと考えな」
「いでででっ。……咲良には関係ねぇだろ」
睨み上げるが、逆に高い位置から見下ろされた。
「へぇ……、ずいぶんと生意気な口利くじゃない」
これ見よがしに指の関節を鳴してみせる。
剣司は格好付けたがりだったが、咲良は「女に買ったって自慢にならない」なんて、簡単に言えるような相手ではない。
散々訓練、手ほどきと称して投げ飛ばされてきた剣司にとって、その腕力は脅威でしかなかった。
「俺が悪かったって! ……大体一年後のことは一年後になってみないとわかんねぇだろうが」
「そんなこと言ってると、就職口がなくて学校に居残ることになるんだからね」
「はいはい」
「はい、は一回! 剣司だけじゃなくて一騎も、提出は今日の放課後だってわかってんの?」
今後はその矛先が、一騎に対して向けられる。
世話焼きなところは、親子して似ているのかもしれなかった。
「一応、島から出たいとは思ってるんだけど……、具体的な職種が思い浮かばなかったんだ」
ここからいなくなりたい。
そのために島を出たいと思っても、何かになりたいなんて、考えたこともなかった。
「あんた島出るんだ?」
「なんだ、一騎もかよ」
二方向から、反応が返る。
「俺もって……、他に誰がいるんだ?」
甲洋が島を出たがっているのは薄々気づいていたから、彼かもしれない。
だが返ってきた答えは、意外なものだった。
「総士の奴、東京の高校を受験するんだとさ」
「本当、なのか?」
「本人に直接聞いたんだから、間違いねぇって」
剣司が断言する。
「あいつ頭いいしねぇ……。この島に納まる器じゃないでしょ」
父親の仕事の関係だと、しょっちゅう島を出ていた彼。
あれは、こういうことだったのだろうか。
自分が島を出ても、彼はここに残るものとばかり思っていた。
水が蒸発するみたいに、自分は跡形もなく消えて、けれどその一方で島は自分がいた頃と何一つ変わらず存在する。
だから自分はここではない場所で、空気みたいになってここを――彼を思えばよかった。
その未来予想図がガラガラと音を立てて崩壊する。
屋上へ出る扉は、一騎がそこに辿り着く前に開いた。
生徒会室、職員室。他にも総士がいそうなところは隈なく探してきた一騎だ。
「総士!」
「……珍しいな、お前の方から話しかけてくるなんて」
屋上で果林と話していたあとだった。
総士に続こうとしていた果林を、後ろ手でドアを閉ざして隔離する。
まだ自分と彼女の関係を、一騎に知られるわけにはいかない。
こちらの様子を察してくれたのだろう。
ノブを押さえ込むと、しばし抵抗があったあと、大人しくなった。
「東京の高校、受験するって本当なのか?」
「何だ、いきなり」
「いいから答えてくれ」
同じ教室にいるから、声を聞く機会くらいはある。
けれど一騎の、総士に対して話しかける言葉を聞くのは、何年振りかのことだった。
「……希望調査だろう。あくまでそういう可能性もあるという話だ」
「お前、目見えないのに!」
「勝手に人を失明させるな」
視力が一.五以上ある一騎は、総士の弱視を完全に見えないものと勘違いしている節があった。
幼い日の鈴村神社での一件は、明らかに一騎の心に影を落としている。
別に、総士は左目の責任を一騎に負わせようとは思っていない。
あれは正当防衛だった。
一騎が総士を止めていなければ、今二人はこうして生きていなかっただろう。
そうわかっているのに、俯いた一騎の姿は、総士を苛々させて仕方がなかった。
この目を自分のせいだと思うのは、一騎の勝手だ。
いつも謝りたそうな顔をして、けれどすぐに視線を逸らす一騎。
ここにいる自分から目を逸らして、一体何に対して償いたいというのか。
傷のせいで、総士はファフナーに乗ることができなかった。
毎朝鏡を見るたびに、突きつけられてきた事実を、そうやって苦しんでいた総士を、一騎は知らない。
知らずにそういう顔をするのは卑怯だ。
「……用件は済んだか? なら僕はもう行く」
「行くな」
すれ違いざま、一騎は総士の袖口を掴んだ。
「……離せ」
「東京なんかに行くな。……何でわざわざそんな遠いところに行くんだ?」
目の届く場所にいれば、何が起こったって助けれやれる。
自分の何を犠牲にしたっていい。
だから、助けられないほど遠くまで行かないでほしかった。
「お前にどうこう言われる筋合いはない」
一騎の手は振り払われ、総士はそのまま行ってしまった。
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