近況報告、二次加工品の展示など
最古記事
100題、総蔵。
前回からそうですが、親が出張りすぎ。
そして戦闘シーンが無駄に多い。
前回からそうですが、親が出張りすぎ。
そして戦闘シーンが無駄に多い。
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「止まれぇーーー!!」
僚が吼える。
ルガーランスを構え、アインが跳躍した。
先手必勝とばかりに、敵を一閃する。
「あと一体!」
二体で攻めてきたうちの残り一体は、ふよふよと後退を始めた。
退いてくれればいいというものではない。
島のことを知られた以上、帰すわけにはいかないのだ。
相手も完全に逃げるつもりはないらしく、一定の距離を取りつつ、こちらを誘っている。
ツヴァイと共に挟み撃ちにしようと、アインがすり足で動き出した。
そのじりじりとした動きに合わせて、フェストゥムも微妙に向きを変え、常にアインと正面で相対する形になっている。
いやなプレッシャーのかけ方だった。
「島の後方から新たな敵が接近」
睨み合いの緊張感を破るように、総士の声が告げた。
どうやら今までのは時間稼ぎだったらしい。
「数は一、同じくアルヘノテルス型。奴は増殖タイプだ。上陸されれば、あっという間に島を乗っ取られるぞ!」
「蔵前、向こうの奴は任せた。俺はこいつを叩く!」
「わかりました!」
ネタがわかれば、いつまでも引っかかっているわけにはいかない。
それまで牽制が嘘のように、アインは敵に切りかかっていく。
総士が操縦するリンドブルムが低空飛行を始め、ツヴァイがそれに手を伸ばした。
接続するために、体制を整えている間がない。
バランスは悪いが、飛べないことはなかった。
「あそこ! 皆城君、空中から奴の上に落として」
「やれるか?」
「やってみせるわ」
腰からマインブレードを引き抜く。
上空から敵の背中に覆いかぶさるように、ツヴァイが落下した。
フェストゥムがそれを引き離そうと身をよじり、ワームスフィアを周囲にばら撒く。
余波を恐れてか、そう大きな塊ではない。
しかしいくつかは着弾し、ツヴァイの装甲を抉っていった。
「……っ、振り落とされてたまるもんですか!」
手にした刃を握り締める。
それを敵の頭部、もしくは背ともいえる場所につき立てた。
上がる爆音。
「蔵前がやったのか!?」
「なら俺も……、グズグズしてらんないよな!」
まるで槍のように、ルガーランスを敵に向かって投げつけた。
それがコアに向かって吸い込まれていく――。
「……シュミレーション訓練終了」
使えるパイロット、使える機体。
嫉妬なんてもう捨てたはずなのに、かすかに心に燻るものがある。
総士はシステムから手を引き抜いた。
「コーヒーいる?」
「ああ、もらっておく」
例のごとく、ブリーフィングルームで反省会である。
メディカルチェックを済ませた果林は、僚よりも一足早く部屋に来ていた。
総士はもらったコーヒーで軽く咽を潤す。
これだけシュミレーションに慣れれば、もう慶樹島の演習施設でファフナー同士、模擬戦闘を行わせてもいいかもしれない。
資料を用意しながらそんなことを思っていると、彼女が言いづらそうに口を開いた。
「将陵先輩の変性意識って、積極的っていうか、元気っていうか、ちょっとエネルギッシュよね……」
「ニーベルングの影響だけじゃないんだろうな。先陣切って戦ってくれるのは有り難いが、普段の飄々とした性格に慣れていると扱いづらい」
「私は?」
好奇心という言葉を張り付かせて、果林は総士の顔を覗き込んだ。
「蔵前はもとの性格が周囲に同調しやすいからな」
「わかってるわよ。それでみんなに迷惑かけたんですー。歩く公害マシンっていわれても、仕方ないわよ」
「誰もそこまでは言っていない」
「でも、そう思ってるんでしょ?」
確かに渦中にあってそれは否定しないが、咽もと過ぎれば熱さ忘れるというやつで、今更どうこう言う気もない。
「……相手に合わせる癖がついてる分、蔵前は機体との一体化率が高い。おまけに普段から自分を作っているから、変性意識で大きな差が出にくいんだ」
事実だけを淡々と述べる。
「それって、ちょっとは役に立ってるってこと?」
「ああ」
はっきりした形で褒めない総士の言葉は、果林にはわかりづらかったらしい。
「そう……、そうなんだ。ならいいわ」
「一人で納得するな。気持ち悪いぞ」
「何の話だ?」
ドアが横にスライドし、僚が中に入ってきた。
「あ、いえ……」
「先輩の変性意識について、ちょっと」
「そんなに俺のって、評判悪いんだ?」
自分でも違うという自覚はあるらしい。
「驚いているだけですよ」
「ふーん。……まぁ、俺としてはなるほどって感じだったけど」
「どういうことですか?」
「あれに乗ってる間は、ファフナーの身体が、俺の身体ってことだろ? 生まれたときから健康だったら、ああいうふうになったんじゃないか、ってさ」
身体が動く、走る。
その躍動感に突き動かされるまま、心もはやる。
心と身体は密接に繋がっているのだ。
「本当はこうなりたい、理想の自分? 生きながらにして生まれ変われるなんて、思わなかった」
そのために死にたいとは思わなかったけれど、ああなりたかったのは事実だ。
それが僚が僚としてあるうちに経験できるのなら、幸せというものだろう。
「先輩って、結構前向きですよね」
「そうかな?」
「私は人格が分裂したみたいで、楽しむどころじゃありませんでしたよ」
少し前の自分。
どん底のままなら、それをネタに軽口を叩くなんてことは絶対にしなかっただろう。
「確かにそれと比べたら、俺のは深刻さが足りないよなぁ……」
総士も、果林も、僚も。
ファフナーに乗ることで、失ったものがあり、手に入れたものがある。
かつての自分では手に入れることのできなかったものが。
夜のしじまに影が落ちる。
「何……? これ……?」
痛みで目覚めた。
まるで金縛りにあったように、手が自分の意志で動かせない。
指先を動かすといった簡単な動作さえできず、痺れだけが強くなっていく。
そうして朝が来て、空が白み始めるまで、小刻みに震えながら、果林は痛みに耐えていた。
「蔵前、目……」
「目?」
「目が赤いままだ」
その日の訓練が終わったあと、メディカルルームに向かうため、果林を待っていた僚がそれを指摘した。
昨日までと変わらない日常のはずだ。
「嘘、私ファフナー降りてるのに……」
通常ファフナーに乗っている状態の、パイロットの瞳は赤く染まっている。
だがそれは、搭乗後には元に戻るはずなのだ。
鏡もない場所では確認できない。
視界に以上はなく、目の前に広げた手のひらも普通に見える。
自覚症状はなかった。
「同化、現象……? これが?」
「蔵前、遠見先生のところに行こう」
僚が冷静に告げた。
「いやっ、皆城君には言わないで!」
「総士は俺たちの指揮官で、知られるのは時間の問題だ。そんなことよりも早く先生のところへ――」
「お願い!」
果林が僚に縋りついた。
誰にも知られたくない。
皆城君には知られたくない。
せっかく役に立つといってもらえたのに、これで終わりだなんていやだ。
このままじゃ終われない。
終わりたくない――。
この人さえ何も言わなければ、いくなれば、誰もそれを知らないのに。
膝から床に崩れ落ちる。
「あ……、ああぁ!!」
自分の手のひら。
緑色の結晶が身体の内側から成長し、きらきらと輝いていた。
「総士君は覚えが早いな。もともと頭のいい子だということはわかっていたが」
司令代理という肩書きをもらっているが、元日本自衛軍に属していたことから、戦術アドバイザーとして雇われたのである。
戦闘にならなければ、普段史彦がすべきことはほとんどない。
自宅で気ままに轆轤を回すだけだ。
それが最近、システムに乗ることになった親友の息子のために、家庭教師の真似事をしていた。
「研究者だった鞘に似たんだろう」
「若い頃のお前にもよく似ている」
「私はあんなだったか?」
公蔵が眉をひそめて、首を傾げる。
「ああ、必死なところがよく似ているよ」
「……私はお前や溝口のような戦争屋ではないからな。鞘が死んだときも仇一つ打てなかった……。だからといってフェストゥムと戦いたかったわけではないが、戦うことができないあいつの、もどかしさや無力感はよくわかっているつもりだ」
失ったあとに戦って、その悲しみを誤魔化す術を知らないからこそ、喪失を恐れているのかもしれなかった。
だから事前に対処しようとする。
「お前は理性的な男だから、戦いは向かんのだろう」
瀬戸内海ミールを管理してきた財団に生まれた公蔵にとって、フェストゥムは敵ではなく、理解すべき研究対象だった。
それは同化された鞘にしても同じことで、二つの種の共存を願い、死の間際、腹に宿る娘をミールに与えたのだ。
「フェストゥムと理解し合えると、お前はいまだに思っているのか?」
「瀬戸内海ミールに敵対の意志はなかった。それはこの島に生きるお前も知っているだろう。……フェストゥムはミールの意志で動いている。北極海ミールを説得、もしくは破壊できれば状況は変わると思っている」
二つの種の共存、公蔵と同じく敵に妻を同化された史彦はまだ、疑っていた。
「何でおかしいと思ったときに、すぐ来なかったの!?」
ストレッチャーで医務室に運び込まれる。
遠見千鶴の怒号が響いた。
「……先生。私、まだファフナーに乗れますか……?」
果林が千鶴の袖口を掴む。
「今はそんなことよりも自分のことを考えなさい」
「私まだ乗れますか?」
もう一度繰り返した。
答えなければ、きっと何度でも聞き返すだろう。
「……こんなのはまだ初期症状よ。きちんと治療すれば、ちゃんとよくなるわ」
そこでようやく彼女は目を閉じた。
明け方の眠りを取り返すように。
処置が終わるまで、総士は部屋に立ち入ることができなかった。
僚も同じく処置室の扉の前で待っていたが、容態だけわかると、総士の方に軽く手を置いて帰っていった。
「聞いた?」
彼女の瞳は濡れた紅玉のようで、人工子宮で眠る妹の瞳を思い起こさせた。
「最初あれだけ怖がってたのにね、ファフナーに乗れなくなるって思った途端、そっちの方が怖くなったの」
『私はファフナーになって戦う。同化されかけたら、さっきみたいに皆城君が腕でも足でも切り離して、助けてくれるんでしょう?』
システムに乗っていれば、指揮を取っていれば、死ぬはずの人を救えるかもしれない。
けれど、パイロットを戦場から生還させることはできても、ベッドの上で同化現象に苦しむ友は救えない。
システムに乗っていない、皆城総士というただの人間は、こんなにも無力だ。
「……私、まだ戦えるわ」
この四肢はまだ彼に繋がっている。
それだけが戦う理由だった。
「止まれぇーーー!!」
僚が吼える。
ルガーランスを構え、アインが跳躍した。
先手必勝とばかりに、敵を一閃する。
「あと一体!」
二体で攻めてきたうちの残り一体は、ふよふよと後退を始めた。
退いてくれればいいというものではない。
島のことを知られた以上、帰すわけにはいかないのだ。
相手も完全に逃げるつもりはないらしく、一定の距離を取りつつ、こちらを誘っている。
ツヴァイと共に挟み撃ちにしようと、アインがすり足で動き出した。
そのじりじりとした動きに合わせて、フェストゥムも微妙に向きを変え、常にアインと正面で相対する形になっている。
いやなプレッシャーのかけ方だった。
「島の後方から新たな敵が接近」
睨み合いの緊張感を破るように、総士の声が告げた。
どうやら今までのは時間稼ぎだったらしい。
「数は一、同じくアルヘノテルス型。奴は増殖タイプだ。上陸されれば、あっという間に島を乗っ取られるぞ!」
「蔵前、向こうの奴は任せた。俺はこいつを叩く!」
「わかりました!」
ネタがわかれば、いつまでも引っかかっているわけにはいかない。
それまで牽制が嘘のように、アインは敵に切りかかっていく。
総士が操縦するリンドブルムが低空飛行を始め、ツヴァイがそれに手を伸ばした。
接続するために、体制を整えている間がない。
バランスは悪いが、飛べないことはなかった。
「あそこ! 皆城君、空中から奴の上に落として」
「やれるか?」
「やってみせるわ」
腰からマインブレードを引き抜く。
上空から敵の背中に覆いかぶさるように、ツヴァイが落下した。
フェストゥムがそれを引き離そうと身をよじり、ワームスフィアを周囲にばら撒く。
余波を恐れてか、そう大きな塊ではない。
しかしいくつかは着弾し、ツヴァイの装甲を抉っていった。
「……っ、振り落とされてたまるもんですか!」
手にした刃を握り締める。
それを敵の頭部、もしくは背ともいえる場所につき立てた。
上がる爆音。
「蔵前がやったのか!?」
「なら俺も……、グズグズしてらんないよな!」
まるで槍のように、ルガーランスを敵に向かって投げつけた。
それがコアに向かって吸い込まれていく――。
「……シュミレーション訓練終了」
使えるパイロット、使える機体。
嫉妬なんてもう捨てたはずなのに、かすかに心に燻るものがある。
総士はシステムから手を引き抜いた。
「コーヒーいる?」
「ああ、もらっておく」
例のごとく、ブリーフィングルームで反省会である。
メディカルチェックを済ませた果林は、僚よりも一足早く部屋に来ていた。
総士はもらったコーヒーで軽く咽を潤す。
これだけシュミレーションに慣れれば、もう慶樹島の演習施設でファフナー同士、模擬戦闘を行わせてもいいかもしれない。
資料を用意しながらそんなことを思っていると、彼女が言いづらそうに口を開いた。
「将陵先輩の変性意識って、積極的っていうか、元気っていうか、ちょっとエネルギッシュよね……」
「ニーベルングの影響だけじゃないんだろうな。先陣切って戦ってくれるのは有り難いが、普段の飄々とした性格に慣れていると扱いづらい」
「私は?」
好奇心という言葉を張り付かせて、果林は総士の顔を覗き込んだ。
「蔵前はもとの性格が周囲に同調しやすいからな」
「わかってるわよ。それでみんなに迷惑かけたんですー。歩く公害マシンっていわれても、仕方ないわよ」
「誰もそこまでは言っていない」
「でも、そう思ってるんでしょ?」
確かに渦中にあってそれは否定しないが、咽もと過ぎれば熱さ忘れるというやつで、今更どうこう言う気もない。
「……相手に合わせる癖がついてる分、蔵前は機体との一体化率が高い。おまけに普段から自分を作っているから、変性意識で大きな差が出にくいんだ」
事実だけを淡々と述べる。
「それって、ちょっとは役に立ってるってこと?」
「ああ」
はっきりした形で褒めない総士の言葉は、果林にはわかりづらかったらしい。
「そう……、そうなんだ。ならいいわ」
「一人で納得するな。気持ち悪いぞ」
「何の話だ?」
ドアが横にスライドし、僚が中に入ってきた。
「あ、いえ……」
「先輩の変性意識について、ちょっと」
「そんなに俺のって、評判悪いんだ?」
自分でも違うという自覚はあるらしい。
「驚いているだけですよ」
「ふーん。……まぁ、俺としてはなるほどって感じだったけど」
「どういうことですか?」
「あれに乗ってる間は、ファフナーの身体が、俺の身体ってことだろ? 生まれたときから健康だったら、ああいうふうになったんじゃないか、ってさ」
身体が動く、走る。
その躍動感に突き動かされるまま、心もはやる。
心と身体は密接に繋がっているのだ。
「本当はこうなりたい、理想の自分? 生きながらにして生まれ変われるなんて、思わなかった」
そのために死にたいとは思わなかったけれど、ああなりたかったのは事実だ。
それが僚が僚としてあるうちに経験できるのなら、幸せというものだろう。
「先輩って、結構前向きですよね」
「そうかな?」
「私は人格が分裂したみたいで、楽しむどころじゃありませんでしたよ」
少し前の自分。
どん底のままなら、それをネタに軽口を叩くなんてことは絶対にしなかっただろう。
「確かにそれと比べたら、俺のは深刻さが足りないよなぁ……」
総士も、果林も、僚も。
ファフナーに乗ることで、失ったものがあり、手に入れたものがある。
かつての自分では手に入れることのできなかったものが。
夜のしじまに影が落ちる。
「何……? これ……?」
痛みで目覚めた。
まるで金縛りにあったように、手が自分の意志で動かせない。
指先を動かすといった簡単な動作さえできず、痺れだけが強くなっていく。
そうして朝が来て、空が白み始めるまで、小刻みに震えながら、果林は痛みに耐えていた。
「蔵前、目……」
「目?」
「目が赤いままだ」
その日の訓練が終わったあと、メディカルルームに向かうため、果林を待っていた僚がそれを指摘した。
昨日までと変わらない日常のはずだ。
「嘘、私ファフナー降りてるのに……」
通常ファフナーに乗っている状態の、パイロットの瞳は赤く染まっている。
だがそれは、搭乗後には元に戻るはずなのだ。
鏡もない場所では確認できない。
視界に以上はなく、目の前に広げた手のひらも普通に見える。
自覚症状はなかった。
「同化、現象……? これが?」
「蔵前、遠見先生のところに行こう」
僚が冷静に告げた。
「いやっ、皆城君には言わないで!」
「総士は俺たちの指揮官で、知られるのは時間の問題だ。そんなことよりも早く先生のところへ――」
「お願い!」
果林が僚に縋りついた。
誰にも知られたくない。
皆城君には知られたくない。
せっかく役に立つといってもらえたのに、これで終わりだなんていやだ。
このままじゃ終われない。
終わりたくない――。
この人さえ何も言わなければ、いくなれば、誰もそれを知らないのに。
膝から床に崩れ落ちる。
「あ……、ああぁ!!」
自分の手のひら。
緑色の結晶が身体の内側から成長し、きらきらと輝いていた。
「総士君は覚えが早いな。もともと頭のいい子だということはわかっていたが」
司令代理という肩書きをもらっているが、元日本自衛軍に属していたことから、戦術アドバイザーとして雇われたのである。
戦闘にならなければ、普段史彦がすべきことはほとんどない。
自宅で気ままに轆轤を回すだけだ。
それが最近、システムに乗ることになった親友の息子のために、家庭教師の真似事をしていた。
「研究者だった鞘に似たんだろう」
「若い頃のお前にもよく似ている」
「私はあんなだったか?」
公蔵が眉をひそめて、首を傾げる。
「ああ、必死なところがよく似ているよ」
「……私はお前や溝口のような戦争屋ではないからな。鞘が死んだときも仇一つ打てなかった……。だからといってフェストゥムと戦いたかったわけではないが、戦うことができないあいつの、もどかしさや無力感はよくわかっているつもりだ」
失ったあとに戦って、その悲しみを誤魔化す術を知らないからこそ、喪失を恐れているのかもしれなかった。
だから事前に対処しようとする。
「お前は理性的な男だから、戦いは向かんのだろう」
瀬戸内海ミールを管理してきた財団に生まれた公蔵にとって、フェストゥムは敵ではなく、理解すべき研究対象だった。
それは同化された鞘にしても同じことで、二つの種の共存を願い、死の間際、腹に宿る娘をミールに与えたのだ。
「フェストゥムと理解し合えると、お前はいまだに思っているのか?」
「瀬戸内海ミールに敵対の意志はなかった。それはこの島に生きるお前も知っているだろう。……フェストゥムはミールの意志で動いている。北極海ミールを説得、もしくは破壊できれば状況は変わると思っている」
二つの種の共存、公蔵と同じく敵に妻を同化された史彦はまだ、疑っていた。
「何でおかしいと思ったときに、すぐ来なかったの!?」
ストレッチャーで医務室に運び込まれる。
遠見千鶴の怒号が響いた。
「……先生。私、まだファフナーに乗れますか……?」
果林が千鶴の袖口を掴む。
「今はそんなことよりも自分のことを考えなさい」
「私まだ乗れますか?」
もう一度繰り返した。
答えなければ、きっと何度でも聞き返すだろう。
「……こんなのはまだ初期症状よ。きちんと治療すれば、ちゃんとよくなるわ」
そこでようやく彼女は目を閉じた。
明け方の眠りを取り返すように。
処置が終わるまで、総士は部屋に立ち入ることができなかった。
僚も同じく処置室の扉の前で待っていたが、容態だけわかると、総士の方に軽く手を置いて帰っていった。
「聞いた?」
彼女の瞳は濡れた紅玉のようで、人工子宮で眠る妹の瞳を思い起こさせた。
「最初あれだけ怖がってたのにね、ファフナーに乗れなくなるって思った途端、そっちの方が怖くなったの」
『私はファフナーになって戦う。同化されかけたら、さっきみたいに皆城君が腕でも足でも切り離して、助けてくれるんでしょう?』
システムに乗っていれば、指揮を取っていれば、死ぬはずの人を救えるかもしれない。
けれど、パイロットを戦場から生還させることはできても、ベッドの上で同化現象に苦しむ友は救えない。
システムに乗っていない、皆城総士というただの人間は、こんなにも無力だ。
「……私、まだ戦えるわ」
この四肢はまだ彼に繋がっている。
それだけが戦う理由だった。
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