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100題、総士と僚。
左右を無視した、先輩の身の振り方。

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総士が商店街へと下っていく坂道を、行き交うようにして、人が登ってくる。
総士が背にした場所は、名目上はただの行き止まりで、辿り着く場所は一つしかない。

「総士、これから帰りか?」

どこに行くにも連れている彼の愛犬は、今日は一緒ではなかった。

「先輩は……」

――アルヴィスですか。
続く言葉を、総士は咽の奥に飲み込んだ。
子供たちがまだ知らないはずの、公然とした島の秘密。
不用意に口にしていいものではない。
そんな総士の気配を察したのか、僚が微笑んだ。

「ノートゥングモデルの次のテストパイロットに、俺が決まった」

一瞬、総士は僚を凝視した。
カラスの鳴き声がどこからか聞こえてくる。
先に禁を破った僚は、涼しい顔で総士の反応を待っていた。

「僕が不甲斐なかったばかりに、すみません……」
「それを言うなら、俺が選ばれたのだって似たようなもんだろ? 三年のめぼしい連中が、L計画に参加していなかったってだけなんだから。メモリージングが表面化してて、コード形成数が高いのが、俺しかいなかった」

パイロットの平均年齢は十六歳。
大人になるに従って、搭乗のために必要なコードを形成することが難しくなる。
そして、総士たちの世代より上に行く程、コード形成数が高い者の死亡率は上がって行く。
ファフナーに乗らずとも、同化現象が起こるのだ。
戦える人間は限られていた。

「あまり気にするなよ。俺、身体がこんなだから、L計画から外されただろ。医者のいない場所なんて、死にに行くようなもんだって、止められた」

選抜され、Lボートに乗った者たちは、計画終了まで敵を撃退し続けなければならない。
翔子と同じ病を患い、学校を休みがちだった僚を、生きて帰れるかもわからない、死出の旅へと連れて行く気にはならなかったのだろう。
死にに行くつもりはなくとも、生きて帰れる可能性は低い。

「……一昨日、薬を減らされたんだ。もう回復の見込みがないから、治療薬を減らして痛み止めを処方するってさ……。もう一月早くわかってれば、よかったのにな」
「……死にたかったんですか?」
「みんなが生きろって繋いでくれた生命なのに、もったいないなと思っただけだよ……。だから今回のことは感謝してる。何もできないまま終わったんじゃ、みんなに会わせる顔がないからな」

翔子も僚も生まれながらにして、自分たちとは違う次元で死と向き合ってきた。
死を見据えて、それでも生きようとする意志を、受け取るだけの覚悟が自分にはあるのだろうか。

「実際の戦闘まで生き残れる可能性は少ないと思うけど、よろしく頼む」



「あ……」

家に帰ってきて、荷物を置いてから気が付いた。
僚がパイロットになるという話が、そんなにショックだったのか、商店街で買い物をするつもりが、うっかり忘れてきたらしい。
日もとっくに落ちているから、店ももう閉じてしまっただろう。
そうでなくとも、これから出かける気なんて起きなかった。

適当にカロリーメイトで食事を済ませ、帰る直前、父に渡されたディスクを鞄から出す。
「お前には知る必要がある」、そう言って渡されたものだ。
パソコンに接続して立ち上げる。
シナジェティックコードの形成数値、――パイロット適正データだ。
見知ったたくさんの名前、最適任者の一番上に、真壁一騎の名があった。
大切なものが少しずつ、けれど確実に失われていく予感がする。
それを止める術が見つからない。
ジークフリードシステムに乗ることを選んだ自分。
ならばこれも、その結果だというのだろうか。

「……かず、き」

ディスプレイが放つ光が、総士の顔を照らしていた。
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