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近況報告、二次加工品の展示など
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100題で、総士を除いてオールキャラ気味。
うちの一騎は総士のことで行き詰ると、真矢で回復せねばならないらしい……。


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文化祭が近づくに連れ、総士の忙しさには拍車がかかり、今も昼休みだというのに生徒会室だか、職員室だかに行ってしまっていて、教室にはいない。
一騎はそのことに少しほっとしていた。
しゃべったり、身動きしたりするたび、それが総士にどう映るかそればかり気にしている。
そして彼のかすかな声や仕草に、感覚を集中させる。
彼の意識の端に、自分のことが上ってしまうのを恐れる反面、自分が彼の何かを漏らしてしまうのはもっと怖かった。
息が詰まるとは、こういうことをいうのだろう。
ここまで来るといっそのこと、総士が視界の中に入らない方が望ましいとさえ思う。

「一騎も混ざる?」

特に発言があるわけでもない一騎を雑談に誘ってくれたのは、甲洋であった。
一つ頷いて、席を立つ。
正午過ぎ、気温の高さと食後の満腹感が眠気を誘った。
視力だけは無駄にいい。
窓際に腰掛け外に目を遣ると、海面が揺らめき、波頭が白々と輝く海が遠くに見えた。
ただぼーっとしているだけだったが、気心が知れた幼なじみたちは、一騎の性格を重々承知しているので、今更それに対して何かを言うつもりもない。

話題は近くに迫った文化祭や体育祭、急に生徒会長に立候補した剣司のこと、目まぐるしく展開していく。
本人は「生徒会長になれば女の子にモテるようになるかもしれねぇだろ?」と嘯いているが、それが真実かどうかは定かではない。
剣司の応援演説は総士が引き受けた。
一年のときから生徒会に関わり続けていた総士は、生徒会長の最有力候補とされていたが、これで二人の一騎打ちは見られなくなったわけだ。
面白いことに飢えている島の子供たちは、そのことを何よりも残念がった。
一騎にしてみれば総士の仕事が増えたことの方が気になるが、甲洋のように手伝えるだけの事務能力はないし、それ以前に一騎は総士に話しかけることさえできないから、見守ることしかできない。
結局、総士が教室にいてもいなくても、自分の思考が総士の元を離れられないことに自嘲する。
甲洋が律儀にそれを目の端に止めて、眉を顰めた。

「そういえば、総士と蔵前って付き合ってんのかな」
「……それ、本当なのか?」

剣司の発言に思わず訊き返す。

「どこから出てきたんだ、そんな話……」

甲洋も初耳のようだった。

「蔵前って風邪で学校休んだことになってるけど、本当はただのずる休みだったんだろ? それを総士が毎日説得に行ってたって聞いたぜ?」
「まぁ、総士は学級委員だし、それは仕方がないんじゃないの?」

衛の言い分はもっともだった。
総士は先生方に何かと雑用を頼まれ、こなしている。
果林の家は総士の家から近かったはずだし、だったらそれもありだろうと、そう思ったのだ。
教室の中で起こったことなら、大抵知っている。
けれど今、総士がここでないどこかで、何をしてるかなんて知らない。

「だけどさぁ」
「それをいうなら、総士は羽佐間とだって仲がいいだろ……」

なおも食い下がる剣司に対して矛先をそらすように、一騎は羽佐間翔子のことを持ち出した。
何の病気だかは知らないが、生まれつき身体が弱いらしく、保育園のときから一緒だったのに、ほとんど顔を合わせていない。
よっぽど体調がよいときでないと、来てもすぐ早退になってしまうのが落ちで、学校側からは特別に自宅学習を認められている。
中学に入ってからは総士が翔子の勉強を度々見に行っているようだった。

「総士は羽佐間にも勉強を教えたり、いろいろ面倒を見てるよね。生徒会繋がりで、三年の生駒先輩とも仲いいし」
「……狭い島だからね。言い出したらキリがないと思うよ」

甲洋が苦い顔で応えた。
珍しく歯切れが悪い。

「せっかくのラブロマンスだと思ったのになぁ」
「剣司ってほんと、そういう話好きだよね」

もちろんこの年頃だから、皆そういう話題に興味がないわけではなかった。
誰が誰を好きかなんて、なんとなく知っていたりするけれど、それでもはっきりと確認したことはない。
島民全員が顔見知りといっても過言ではない島で、そういう話を持ち出せばお互い気まずくなるだけだ。
学校に通っているうちは顔を合わせずに済む日などないのだから、正式に付き合ったり、結婚したりするまでは、おおっぴらにからかいの対象になることはなかった。
それを考えると、剣司のようなタイプは珍しい。

「……中学を卒業したらさ、外に出る奴もいるけど、大体の奴はこの島にそのまま残って就職して、結婚したりするじゃん。小さいときからずっと一緒にいて、いつまで寝小便してたとか、そんなことま知ったり知られたりしてる相手に……、だぜ? 何かそういう色っぽい話って想像できないんだよな」
「なのに言うんだ?」
「だからこそだって。いつ誰がそういうふうになってもおかしくないだろ? 総士は誰にでも公平に接するけど、その分特別に親しい奴なんて作らねぇからさ……。俺だって総士が誰かとくっつくなんて、本気で思ったりはしねぇよ。それでも総士は俺たちよりも、いつも一歩前を走ってる。だからもしかして、なんて期待しちまうんだよな」

剣司の目は無邪気さよりも、先が見えずに戸惑い、答えを探している者のそれだった。
少しずつ将来のことを考える。
島を出ること、島に残ること――。
自分はきっと島を出ることを選ぶだろう。
そうして遠く離れた場所で思うとき、この島は郷愁ではなく罪悪感しか喚起しない。
神社に血まみれの総士を置いて逃げたのと同じように、自分はまたこの島に総士を置いて逃げるのだ。



学校帰り、遠見真矢が一騎を追いかけてきた。

「一騎君が元気なかったから」

だから心配になって追いかけてきたのだと、彼女はそう言って笑った。
よく見ているからわかるということなのだろうか。
甲洋にしても、真矢にしても気を遣わせているらしい。
自分と総士はかつて友達で、今でも一騎はそう思っているけれど、実際にはわからないことの方が多いのだ。

「俺と遠見って友達……、なのかな」
「何で今更、そんなこと言うの?」

彼女の声が固くなる。

「何でって……」

もどかしさ。
蔵前のことも、剣司の応援演説のことも、自分は何も知らなかった。

「一騎君って、目に見えないもの、信じてないんだね」
「そうなのかな。でもこっちがそう思ってても、相手がそう思ってなかったら意味がないし……」

あの事件以来、自分の存在は総士の中で抹消されたままだ。
自分は常に彼のことを考えているのに、謝りたい気持ちも、心配する気持ちも、受け取ってもらえずにこの胸にある。
自分の中で一番比重の大きい気持ちを否定されて、その他で誤魔化せるほど、一騎は強くなかった。

「人間同士で、一対一の関係だから。……一騎君は私のこと、友達だと思ってくれてる?」
「……友達って言うと、何か違う気がする」
「一つの言葉でまとめる方が無理なんだよ。私と一騎君には私と一騎君だけの、皆城君と一騎君には皆城君と一騎君だけの関係があるんだから。他の人の物差しでいくら量ったって、仕方がないんだよ」

ただ一人だけ自分の罪を知る彼女には、自分が何に思い悩んでいたかなど、お見通しなんだろう。

「……遠見って、超能力者みたいだな」
「サイコメトラー?」

彼女の目元がほころぶ。

「ああ、魔法使いみたいだ」

自分の思いを口にするのが下手な一騎にとって、真矢の察しのよさは救いだったけれど、彼女のそれを気味悪がる人間も世の中にはいる。
だから一騎はもっと稚拙な言葉で言い直した。
人の心を明るくする魔法使いみたいだと。

自分はきっと島を出るだろう。
けれど真矢が島にいるなら罪悪感だけでなく、もっと違った気持ちでこの島のことを思い出せるかもしれない。
だから彼女には変わらずこの島にいてほしいと、そう思った。
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